日野屋の歴史

 

創業は1887(明治20)年。現在の日野町出身の砂糖問屋、藤岡与兵衛が桑町(現在の前橋市千代田町)に店を構えた。出身地にちなみ、屋号を日野屋とした。

店頭では砂糖の量り売りとともに、各種の紙を扱った。店は緊盛し、与兵衛は滋賀に住みながら経営を続け、地元の成功者として名声を手にした。

跡を継いだ二代目与兵衛はある時、株式投資に失敗。前橋に移リ住み、本業に専念する。このころ使っていた食器や膳は数十組も残る。四代目の一宏社長は「今では考えられない数の使用人を抱えていたのだろう」と往時の繁盛ぶリを推し量る。

大正期や昭和初期には店にレールが敷かれていた。砂糖運搬の専用トロッコのもので、店頭と奥の蔵との間で行き来するためだけに使われた。砂糖の搬入時には荷馬車が店先に乗り付けた。その規模は、地域への甘味の供給を手広く担っていたことを物語る。

戦中は物不足が深刻化し、経営は停滞を余儀なくされる。三代目の太郎は徴兵復員後に店を再興した。太郎は片品村の菓子屋までは配達するなど苦労を重ねた。高度経済成長期になると、街全体が活気に包まれ、店にも再び勢いが戻った。

しかし、スーパーマーケットが相次いて開業し、ビニール袋詰めの砂糖の販売が一般化すると状況は一変。太郎は砂糖以外の品揃え強化の方針を打ち出した。結柄品、香、包装紙、包装ビニール、ちり紙、環造紙などあらゆる生活資材を揃え「現在で言うコンビニ化」を進め、経営危機を乗り切った。

現在の店主は四代目一宏社長。近年、小売業界は大型化の流れは加速し、郊外型の大型ショッピングセンターも相次いで開業、小規模店への逆風は強まる一方だった。思案の末、2004年に店を大規模改修し、お香の専門店へと転換し現在に至る。

店頭の主力商品は京都の老舗の香メーカー「松栄堂」からの直接仕入れ。大手卸売でさえ仕入れが難しい「一見客お断り」の人気ブランドだが、代々続く人脈が特例的な取引を実現した。店の信条は、「お客様の顔を見て会話をした上で、最適な商品を提供する」こと。専門店にしかできないサービスや品揃えを心がけている。

 

1887年江の砂糖問屋、初代藤岡与兵衛が桑町(現・前橋市千代田町)に店を開く
大正〜昭和初期店内で砂糖搬送の専用トロッコが稼働。
戦後三代目の太郎が店を再興する。
2004年店舗と蔵を全面改修。お香の専門店として再出発する。
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